21世紀のフロンティアと呼ばれ、今後長期に渡って人口増と経済発展のポテンシャルが注目されているアフリカ。
しかし、現実には今も多くの国が、輸出を特定の農産物や天然資源に依存する「モノカルチャー経済」という状態にあります。また、輸入の面では、中国などから廉価な工業製品が大量に流れ込んでいます。
結果として、アフリカ各国の貿易の大半はアフリカ大陸以外の国と行われ、域内での経済統合が進んでいません。
この記事では、現在のアフリカ各国の貿易の特徴と、抱えている問題点について掘り下げます。その上で、各国が現在取り組んでいるアフリカ域内の経済統合に向けた取り組みと、それが日本とのビジネスに与える影響についても考えていきます。
アフリカの貿易の特徴と問題点
特定の天然資源や農産物に依存する「モノカルチャー経済」
アフリカ各国の産業構造、貿易状況の一番の特徴は、輸出を特定の農産物や天然資源に依存し、工業製品を輸入に頼るという構造です。
例として、西アフリカの地域大国であるナイジェリアについて見てみましょう。
ナイジェリアは石油生産量が世界12位、輸出量が世界8位のアフリカ最大の産油国で、輸出額の90%以上を原油、天然ガスが占めています。しかし同国の製油所は、資金不足などの理由でメンテナンスが行えず稼働していません。
その結果、産油国にもかかわらずガソリンなどの石油精製品は輸入頼りで、慢性的な外貨不足に陥っています。
同じように多くの国が特定の天然資源や農産物に経済を依存しています。鉱物資源では、マリ(金)、ザンビア(銅)、アンゴラ(原油)、ボツワナ(ダイヤモンド)、農産物では、コートジボワール(カカオ豆)、エチオピア(コーヒー)といった国々です。
このような構造が見られる背景は、旧植民地時代に確立されたモノカルチャー経済です。当時、ヨーロッパの旧宗主国は植民地を農作物や天然資源の産地、かつ工業製品の販売先と位置付け、産業化への投資は進みませんでした。
では、モノカルチャー経済が経済発展の妨げとなるのはなぜでしょうか。
・天然資源は国際価格の変動が大きく、国の収入が不安定になる
・農産物は天候不順などで収穫ダウンとなるリスクがある
・資源輸出に頼ると国内での加工(高付加価値化)が進まず、技術やノウハウが蓄積できない
・ごく一部のグループに国家の富が集中し、貧富の差が広がりやすい
・利権の争奪が独裁、腐敗、内戦、紛争などを誘発する
そして、このモノカルチャー経済は、アフリカ域内の貿易が低調な理由にも大きく関わっています。

域内貿易よりも他の大陸との貿易額が圧倒的に大きい
アフリカの貿易状況のもう一つの特徴は、欧米や中国、インドといった他の大陸の国との貿易が同じアフリカの国家間より圧倒的に多いという点です。
具体的には、域内貿易(輸出ベース、2021年)が、貿易額全体の14.7%にすぎないという統計もあります。
では、なぜアフリカ域内の国同士での貿易が少ないのでしょうか。
以下のような理由が挙げられます。
・アフリカ域内向けに輸出できる工業製品を生産できる国が少ない
・工業化が進んでいないため、アフリカ各国が生産する天然資源の需要がない
・多くの国で輸入品にかかる関税率が高く、取引の活性化を妨げている
・内陸国が多く、道路や港湾といった交通・物流インフラ整備が進んでいない
・大量に流れ込む中国などの工業製品が自国の工業化を妨げている
このように、アフリカ域内の貿易が低調な背景にも、モノカルチャー経済の影響が現れています。
以上を踏まえ、アフリカ各国が今後発展を続けるためには、
①モノカルチャー経済から脱却する
②工業化によって輸出品の付加価値を高める
③経済統合を進め、域内貿易や投資を活発化させる
これらが不可欠だと言えます。
地域統合を目指すアフリカの取り組み
まず理解せねばならないのは、アフリカの経済統合は容易ではない、という事です。
アフリカの総面積は中国、アメリカ合衆国、インドを足したよりも広い約3000万㎢もあり、50以上の国家と、多様な言語、民族、宗教が混在する大陸です。
例えば言語については、各国の少数民族の言語まで含めると合計2000以上が話されています。
国によって政治体制や経済発展の度合い、治安や言論の自由、インターネットアクセスなどの状況もさまざまです。
その点を踏まえ、現在行われている取り組みについて紹介します。
AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)
AfCFTA(アフリカ大陸自由貿易圏)は、AU(アフリカ連合:アフリカのほぼ全ての国が加盟する地域機関)が現在進めている、アフリカ域内統合の最終目標とも言うべきものです。
具体的には、アフリカ大陸全体をヒト、モノ、カネ、サービスが自由に行き交う単一市場とする、という非常に壮大な構想になります。
すでにアフリカのほぼ全ての国が参加を表明し、大枠については合意済みです。現在は具体的な関税率や紛争解決メカニズムなどのルールについて交渉を進めながら、参加国の間で自由貿易の実験プログラムが行われています。
なお、アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)については、こちらの記事でも解説しています。
将来は世界最大の経済圏へ!「アフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)」とは何か
各地域の主な地域統合・経済共同体
一方、アフリカ各地域ではすでにいくつかの地域経済共同体(REC)が結成され、各REC内では関税率引き下げなどが行われています。しかし、未だに同じRECに所属していない国の間の貿易では高い関税などの障壁が残っている状況です。
主な地域経済共同体(REC)を紹介します。
COMESA(東南部アフリカ市場共同体)
加盟国:ブルンジ、コモロ、コンゴ民主共和国、ジブチ、エジプト、エリトリア、エスワティニ、エチオピア、ケニア、リビア、マダガスカル、マラウイ、モーリシャス、ルワンダ、セイシェル、ソマリア、スーダン、チュニジア、ウガンダ、ザンビア、ジンバブエ(21ヶ国)
本部:ルサカ市(ザンビア)
設立年:1994年
目的:加盟各国間の関税や非関税障壁の削減
EAC(東アフリカ共同体)
加盟国:タンザニア、ケニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ、南スーダン、コンゴ民主共和国、ソマリア(8ヵ国)
本部:アルーシャ市(タンザニア)
設立年:2001年
目的:域内の貿易は原産品であれば無関税。域外関税の共通化。
SADC(南部アフリカ開発共同体)
加盟国:タンザニア、ザンビア、ボツワナ、モザンビーク、アンゴラ、ジンバブエ、レソト、エスワティニ、マラウイ、ナミビア、南アフリカ、モーリシャス、コンゴ民主共和国、マダガスカル、セーシェル、 コモロ(16ヶ国)
本部:ガボローネ市(ボツワナ)
設立年:1992年
目的:南部アフリカ地域の地域経済の発展。域内取引は無関税。
ECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)
加盟国:ベナン、ギニアビサウ、コートジボワール、セネガル、トーゴ、カーボベルデ、ガンビア、ガーナ、ギニア、リベリア、ナイジェリア、シエラレオネ、ブルキナファソ、マリ、ニジェール(15ヶ国)
本部:アブジャ市(ナイジェリア)
設立年:1975年
目的:西アフリカの域内経済統合、紛争予防・管理・解決・平和維持といった安全保障機能。域内共通通貨「ECO」導入を目指す。
経済統合に向けた最新の動き

現在は、各地域共同体の間で、さらに大きな経済統合を目指す動きが活発化しています。
最新トピックとして、今年(2024年)7月に、COMESA(東南部アフリカ市場共同体)、EAC(東アフリカ共同体)、SADC(南部アフリカ開発共同体)による拡大自由貿易圏(TFTA:Tripartite Free Trade Agreement)が発効しました。
TFTAの目的は、アフリカ南北地域と東部地域の経済統合を強化するため、上記3つの経済共同体で共通政策を進めることです。特に、貿易、税関、インフラ開発、工業化という分野を重視しています。
このTFTAの規模は、アフリカ全体のGDPの60%(約1兆8,800億ドル)、全アフリカの半数以上の29カ国、総人口は8億人。これまでにない巨大な経済統合と言えるでしょう。
ただし29ヶ国のうち、批准書の寄託を済ませたのは現時点で14カ国のみ。各地域のREC参加国全ての参加は不透明ですが、先行する国から徐々に関税引き下げなどを実施していく見込みです。
また、15ヶ国(総人口3億8000万人)が参加するECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)は、参加国の貿易促進と経済成長を目的として、2027年に単一通貨ECOの導入を目指しています。
元々、ECOWAS参加国のうち旧フランス植民地を中心とした8ヶ国では、ユーロと固定レートで連動する単一通貨CFAフランが使用されていました。しかし、今回の「ECO」は、ナイジェリアなどCFAフラン圏以外の国も参加を予定しています。
ただし、昨今ロシアの影響が強まっているブルキナファソ、マリ、ニジェールの3カ国は2024年2月にECOWAS脱退を表明するなど、実現に向けてはまだ不透明な要素もあると言えるでしょう。
アフリカの地域統合が日本との貿易に与える影響
最後に、日本とアフリカ諸国の最新の貿易状況と、今後の地域統合による影響について考えていきます。
日本とアフリカ諸国との最新の貿易状況
2023年、日本からアフリカへの輸出額は1兆3,991億円(前年比10.0%増)、輸入額は1兆5,172億円(前年比23.4%減)でした。
これは、日本が行う全ての貿易額の2%弱であり、まだまだ経済的に密接とは言い難い状況です。これは、地理的に遠いだけでなく、ヨーロッパ各国のような歴史的経緯がないこと、また中国のようなアフリカへの戦略的な対応が行われてなかった結果と言えるでしょう。
国別では、輸出、輸入のいずれも南アフリカ共和国がトップで、輸出額は3,525億円(前年比14.1%増)、輸入額は1兆220億円(同22.3%減)でした。
ちなみに南アフリカへの輸出品で最も多いのは自動車等の輸送用機器、輸入品では自動車などの排ガス浄化触媒として使用されるロジウム、白金といった貴金属です。
やはり現状の日本の対アフリカ貿易は、天然資源を輸入し最終製品を輸出、という構図がメインと言えそうです。
アフリカ各国の地域統合による日本企業のビジネスへの影響は?
では、今後のアフリカ各国の経済統合は、日本企業のビジネスにどういった影響をもたらすでしょうか?
従来、日本企業から見えるアフリカは、GDPの小さい数多くの国からなる分断された市場でした。
現在も、比較的経済発展が進む南アフリカなどを現地生産拠点とする企業はあっても、地域の壁を越えたビジネス展開は難しい状況です。
しかし、今後、TFTAやAfCFTAが本格的に動き出せば、状況は変わってきます。
より規模が大きく、かつ将来性を期待できる市場としてのアフリカビジネスが動き出すでしょう。例えば南アフリカの製造拠点で生産し、大きな消費市場があるナイジェリアへ無関税で輸出するといった戦略が可能になるのではないでしょうか。
さらにアフリカの工業化が進めば、現在のモノカルチャー経済から脱却しグローバルな生産拠点へ成長する国も現れることでしょう。
すでにそういった長期的な展望を持って、数多くの日本企業がアフリカへのビジネス進出に挑戦しています。具体的なアフリカへのビジネス進出事例については、こちらの記事で詳細解説していますので、ぜひご参照ください。
21世紀最大のビジネスフロンティア、アフリカへ進出する日本企業を紹介!
まとめ
今回はアフリカ各国の経済、貿易の現状と、各地域で進む経済統合に向けた動きについて紹介しました。
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