金曜日, 9月 13, 2024

アフリカの信用格差を埋めるモバイルローンサービスの台頭と未来

アフリカでは、従来の金融システムが抱える深刻な信用格差を埋めるため、モバイルローンサービスが急速に普及しています。これらのサービスは、銀行からローンを借りることが困難だった層に新たな選択肢を提供し、アフリカの経済成長を支えています。いくつものモバイルローンアプリがアフリカのアプリストアの上位に食い込むほど、利用者数が増えています。
モバイルローンサービスが広く普及し始めるきっかけとなったアフリカ独自の背景、スタートアップ企業の事例に加え、このサービスが今後のアフリカビジネスに与える影響について解説します。

限られた人々しかローンを組めない理由

お金を借りるという行為は、日本でどの程度行われているのでしょうか?

日本では、住宅を購入する人のうち約8割が住宅ローンを、車を購入する人の3割強が車ローンを利用しています。
買い物にクレジットカードを使用することは日常ですし、クレカが存在しない1950年代でも、豊かな生活を送りたい人々が、テレビ・冷蔵庫・洗濯機を購入するためにローンを組んでいました。

お金を借りて生活を豊かにする、という手段は先進国内では日常です。
しかしアフリカにおいてローンを受け取るのは、とても難しいことです。
なぜでしょうか?

① 銀行口座を持っていてもローンが組めない

例えば、2021年のデータでは、アフリカの人口のうち57%が銀行口座を保有していません。 (日本における銀行口座普及率は現在90%を超えています。)

ローンを受け取ることができない第一の理由が、この口座普及率の低さです。

銀行口座をもっていないと、貯蓄・ローン・投資といった金融サービスの多くを利用できません。

一方、銀行口座があればローンを組めるかというと、そこにはもう一つ大きな壁があります。ローンを組むための申請書類をたくさん書くのも大変ですが、なにより安定した収入があることを証明する必要があります。

国際労働機関によれば、アフリカで働く人々の83%がインフォーマルセクターに従事しています。バイクタクシーや露天商といった職業が代表的です。これらの仕事に従事する人々は、銀行に安定した収入を証明することが難しく、ローンを利用できる層が限られてしまいます。

実際に、アフリカ大陸における経済大国の一つであるナイジェリアでさえ、成人人口1.6億人のうち、銀行ローンを利用できるのはわずか2%という状況です。

② 銀行はリスクを評価できず、貸したくても貸せない

では、ローンを貸さない銀行が悪いのか?というと、そうでもありません。貸さないという判断をせざるを得ない事情があります。

銀行は、人にお金を貸すとき、事前に「ローンを返済してくれるのかどうか」を予測する必要があります。大まかには、以下の評価をします。
・ローンを返済する能力があるのか
・ローンを返済する意欲はあるのか

銀行としては、お金を借りたい人が自分たちの銀行で口座開設をしていれば、お金の出入りや取引先・頻度を確認できるようになります。しかしそれだけでは「別ローンの返済履歴」「別銀行の口座における取引」といった情報が抜けていて、評価が難しいという現状もあります。

そうしたときに役立つのが、信用情報機関です。
例えば、日本にはCICやJICCといった機関が存在し、個人のあらゆる信用情報とそれを元に生成された信用スコアを管理しています。日本において個人がローンを申請した場合、銀行はあらかじめ信用情報機関にてその個人の信用情報を確認し、自社が保持しない情報も含めたリスク評価を行うことができます。

実はアフリカ各国にも、こういった信用情報機関が複数存在します。しかし、ここで「薄いファイル (Thin File)」と呼ばれる問題が起きています。機関が保持する情報が、人口のうち数十パーセントにしか満たなかったり、仮に大多数の人口をカバーしていたとしても、一部の情報が欠けていたりします。信用情報が不足している人に対してお金を貸せば貸し倒れリスクが上がる為、当然のことながら「ローンを貸さない」決定が下されてしまうのです。

こうした「人々の信用情報不足」という課題を解決し、より簡単に彼らがお金を借りられる状態を作るために、多くのモバイルローンサービスが立ち上がっています。

5分でローンを組めてしまう!モバイルローンサービス「Carbon」の事例

有名なモバイルローンサービスの一つである、ナイジェリア発のCarbonを紹介します。

Carbonは、スマートフォンでアプリをダウンロードし、アカウント作成をすませれば、簡単にローンを組めてしまうフィンテックサービスです。他にも、貯蓄や投資、決済機能も兼ね備えている他、最近では後払い決済サービスも開始しており、一つのアプリでお金周りの手続が丸ごと完結できるように設計されています。

初回ローンでは最大50万ナイラ (約4.5万円)のローンを組むことができ、日常生活における少額の資金ニーズを満たす上で便利です。また、期限内での返済やアプリ内の別取引を行うことで、さらに大きな金額のローンを借りることも可能になります。

CarbonのCEOは、過去にThe Flipの取材にて以下のように述べています。

  • 「我々は自ら信用スコアを作り出し、実際の実績と照らし合わせて改良を重ねています。モバイルアプリ上でユーザーのデータを取得し、信用情報機関等から取引情報や関連データを取り込むこともしています。」
  • 「我々が集めている6,000万のデータポイントのうち、ユーザーがローンを返済するかどうかを判断する最良の指標は、過去にローンを返済したかどうかです。」

Carbonは、比較的低額なローンを貸し出した結果を教師データとして貯め、信用スコアのアルゴリズムを改良し続け、そのスコアを元にこれまで300万人以上のユーザーにサービスを提供してきました。

【後払いサービス「Carbon Zero」の登場】

ナイジェリアでは、家電製品やバイクを分割後払いで購入できるサービスは既に存在しており、後払いサービス自体は目新しいものではありませんでした。

しかし、Carbonのサービス「Carbon Zero」は、信用情報を活用することにより、利息なしで後払いできること、加えて様々な商品の購入に利用できるという点で、従来の後払いサービスとは異なっています。

スマホ、テレビ、ノートパソコン等の高額商品の購入は、アフリカの人々にとってハードルが高いです。しかし後払いサービスを利用すれば、そうした高額商品にも手を出しやすくなります。冒頭でも述べた通り、1950年代の日本においても「テレビ・洗濯機・冷蔵庫」を購入する為に、ローンが積極的に活用されました。このように、緊急でお金が必要になる場面だけでなく、お金を借りて日常生活をより豊かにしたいというニーズを満たす上でも、後払いサービスが今後より普及していくものと思われます。

モバイルローンサービスの更なる成長に必要な取り組み

モバイルローン市場には、Carbonのみならず、M-KopaCredPalといった競合サービスが多数存在します。これらのスタートアップ企業は、今後、教育・旅行・公共料金の支払いといった領域にも信用取引を導入し、さらなる事業成長を遂げようとしています。

一方、これらの企業は常に貸し倒れリスクを抱えています。今までローンを借りられなかった信用情報の薄いユーザー層が、簡単にローンや後払いサービスを利用できるようになったということは、そのユーザー層による未返済率が増しうることを意味します。

このような未返済リスクに対し、企業は今後以下のような対策を取ることが考えられます。

① 信用情報を企業間で相互共有する仕組みを作る

ローンの返済記録が、他のモバイルローン企業に共有されることが重要になります。あらゆるモバイルローンの利用履歴が信用情報機関に共有され、別々のアプリで未返済を繰り返すユーザーを取り締まることが必要です。

② 期限内に返済すると、今後はより好条件でローンを受けられることをユーザーに伝える

Carbonには、「期限内に返済した」というポジティブな情報が記録され、その記録により、より大きな金額をより低い金利で借りることができる仕組みがあります。

信用記録を確認できる「信用レポート」機能をリリースした当初は、ユーザーから「どうしてポジティブな返済情報が記録されるのかが分からない」という問い合わせが殺到したそうです。この背景には、銀行ローンを借りれない人々がこれまで利用してきた非公式なローン業者が、ポジティブな情報を記録してこなかったという事情があります。

「返済しなかった」という記録のみつけられより悪い条件でローンを借りる他なかった人々が、「期限内に返済すればより良い条件で借りられるようになる」と知ることができれば、ローンの回収率はより改善するのではないでしょうか。

モバイルローンが越境ECに与える影響

アフリカの人々の信用情報が貯まることで、より大きなローンを組めるようになり、アフリカにおける消費がより活性化していくと考えられます。

日本人の多くが住宅ローンや車ローンを使うのと同様に、より多くのアフリカの人々がローンを組み、日本産や海外産の商品を購入する未来が来るでしょう。

こういったアフリカビジネス環境の変化を踏まえた上で、自社ビジネスのアフリカ展開の検討にご興味をお持ちであれば、「マーケットリサーチサービス」をぜひご利用ください。ケニア・タンザニアを中心としたオンラインアンケートやグループインタビュー、現地の店頭訪問などの市場調査サービスを実施しております。

その他、月間6,000万PVを超える越境ECサイトでの「バナー広告サービス」、海外輸送サービス「ポチロジ」など、アフリカ進出をお考えの企業様・個人様を支援するサービスをご用意しております。

ビィ・フォアードではお客様のニーズに合わせてアフリカへのビジネス進出をサポートいたします。ご相談は随時、無料で受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。

参照元
The Flip: Tackling Africa’s $330 Billion Credit Gap
Tech Cabal: How Carbon is leading Nigeria’s ‘Buy Now, Pay Later’ revolution | TechCabal
Rest Of World: Nigerians are learning to buy now and pay later
LINEポケットマネー: 意外に知らない消費者金融の成り立ちとは?銀行との違いや借り方も解説
Tech Safari: Africa has a credit problem
Carbon: Carbon
Risk Seal: How to Improve Credit Scoring in Nigeria Using Alternative Data
国際労働機関: Informal Economy in Africa: Which Way Forward? Making Policy Responsive, Inclusive and Sustainable | International Labour Organization

アフリカビジネス事務局
アフリカビジネス事務局
BE FORWARDは、中古自動車の輸出販売をメインに、アフリカに関するビジネスを幅広く展開しています。 月間販売台数15,000台、アフリカをはじめ世界207の国・地域で商取引を行うグローバルカンパニーです。 越境ECサイトとしては、月間6,000万PV、ネット通販売上高ランキング国内第1位(2023年)。 創業20年、つねに前へとアフリカでのビジネスを切り拓いてきました。その経験と実績をもとに、アフリカビジネス進出を検討する上で役に立つ、アフリカ現地の最新情報をお届けします。

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