火曜日, 3月 18, 2025

ケニア、南アフリカの医療事情と医療ビジネスチャンス。国民皆保険制度の可能性

現在、アフリカ諸国では、富裕層向けの医療サービスは充実しつつあります。しかし、それ以外の所得層に対する医療サービスはまだまだ十分に提供されていないのが現状です。

今回は、そんなアフリカの医療事情について触れてみたいと思います。

中所得層向け医療サービスの成功例

ケニア(RFHヘルスケア・グループ)

Zoscales Partnersのパートナーである投資家のフレッド・カンボは、ケニアでは中間層に質の良いサービスを提供する医療施設が不足していると考えています。

彼は次のように現状を主張しています。

 「高所得者向けの高価だが質の良い病院があり、公共部門の施設もあります。しかし、私たちが『ミッシング・ミドル』と呼ぶ中流階級に質の高い医療をリーズナブルな価格で提供する施設は不足しているのです。」参考:FREDERICK KAMBO

この現状の課題を解決するべく起業家したのがマックスウェル・オコスです。
彼は2011年にワンルームマンションの一室で後のRFHヘルスケア・グループを立ち上げました。
参考 Changing Medicine,Touching Hearts

その後10年間で、彼はケニアに8つの病院と医療センターを持つまでに事業を成長させました。患者に重要なサービスを手頃な価格で提供し、市場のニーズに対応しました。

RFHヘルスケアは、設備とサービスの質で際立っており、地域社会のブランドに対する信頼を高めていきました。緊急時に患者をケアし、24時間体制で対応していることも、この事業に対する信頼をさらに高めることに繋がったのです。競合他社が避けていた都市近郊の地域を最初にターゲットにしたことも有利に働きました。

底得層向け医療サービスの成功例

南アフリカ(国営保険NHI)

一方で、十分な医療サービスを受けることの出来ない低所得層が多く存在するのも事であり、その問題を解決すべく南アフリカでは国営保険NHIが大きな話題となっています。
参考:南アフリカの国営医療保険NHI

NHI法案の目的は、南アフリカ共和国 憲法に謳われているように、すべての南アフリカ国民が質の高い医療を受けられるようにすることです。

憲法は、医療を基本的人権として認めています。

“すべての人は医療サービスを受ける権利を有し、国はこれらの権利をこれまでにないレベルで実現するために、利用可能な資源の範囲内で、妥当な立法措置およびその他の措置を講じなければならず、何人も緊急医療を拒否されることはない” とかれています。”

NHI法案は、これを実現するために次のことを保証しようとしています。

  • 社会経済的な理由で上記の権利を奪われることがないようにする。
  • 一部の人々のためだけでなく、国民全体の健康ニーズをマスに把握し、十分な資源を持つ統一的な公的医療基金を創設する。
  • 究極の目標は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成すること。

NHI法案がもたらす恩恵

NHIは、あらゆる人種、法律に則った長期滞在者、貧富の別を問わず保障対象になります。民間医療機関、公的医療機関を問わず、医療資金が提供されます。日本の健康保険制度に類似した医療制度のイメージです。

これにより、現在世界で最も高額な医療費である南アフリカの医療費は大幅に削減されるでしょう。医療費補助制度と同じように、NHI基金が医療費を負担するので、医療機関での支払いは必要ありません。

NHIは、医療水準において、貧富の差は関係ありません。南アフリカの人々は、質の高い医療を受けるために医療保健制度に直接拠出する必要がなくなります。

NHI 基金の財源は以下の通りです。

  • 一般税
  • 一定額以上の所得がある人の拠出金、および企業で雇用された人達が毎月基金に支払う拠出金

事業主は、UIF(失業保険基金)の拠出金と同様に、従業員のNHI基金への拠出金の徴収と支払いを確実に行うことが求められます。

医療費補助制度や民間医療機関の加入者はどうなるのでしょうか?

NHIは医療扶助制度に代わるものではなく、加入者が希望すれば医療扶助制度を自由に継続することができます。NHIが完全に実施されると、医療保険制度はNHIファンドで保障されないサービスをカバーするようになり、その役割は変わります。

国営医療保険NHIの問題点と課題

南アフリカの医療制度では、低所得者層が十分なケアを受けられないままであること、また中所得層が国民健康保険(NHI)制度導入によって起こる費用負担増などの変化を懸念していることから、大きな圧力に直面していると医療専門家は指摘しています。

非営利団体Section27の健康権プログラム責任者であるサーシャ・スティーブンソン氏は、シティプレスの取材に対し、南アフリカにおける医療制度改革の取り組みは事実上停止しているように見えると語りました。参考:サーシャ・スティーブソン

10年以上にわたる議論と討論の末も、保険制度の展開が進まず関係者は疲弊し、互いの動機や意見を信用しなくなっている、と彼女は語ります。

「この停滞は致命的です。南アフリカの医療制度はいびつな環境下での提供を負担を強いられており、その享受できるサービスが不公平さは周知の通りです。」

ある人々は十分なケアを受ける事ができず、またある人々は過大な支払いをし続けています。そしてこの医療保険改革の混乱から、医療従事者の改革意識は低下しています。

「中産階級の人々は、制度が変わって自分たちの負担が増えるのではないかと不安に感じている。」とスティーブンソン女史は述べます。

保健省の副局長であるニコラス・クリスプ博士は、予算の削減、ポストの凍結、低予算下における看護師や医師の数の増員という圧力と闘っています。参考:https://za.linkedin.com/in/nicholas-crisp-b251b92a

さらに、今の政府は「巨大」であり、「極めて柔軟性がなく、極めて働きにくい職場」であるとも述べています。

「予算配分が不適切で、コロナワクチンに新しい資金が提供されるという幻想はナンセンスだ。毎年凍結されるポストが増えており、公共部門は人々が思っているほど改善される見込みは全くない」と述べる程です。

NHIの分裂

NHIの目標の1つは、公平性を高め、すべての南アフリカ国民が適切な医療を受けられるようにすることです。

しかし、専門サービス企業PwCが発表した報告書によると、NHIの提案に関する議論はまだ二分されていると言います。この報告書は、南アフリカのあらゆる分野の医療機関の経営幹部31人からの回答をもとに、詳細なインタビューとオンライン調査の両方を実施したものです。

報告書によると、調査対象の経営者の100%がNHIの意図と国民皆保険モデルを支持していますが、この国営医療保険制度が成功すると考えている回答者はわずか50%でした。

回答者が特に懸念しているのは以下の点です。

  • 提供される保険の範囲と給付の範囲
  • ガバナンスの構造
  • 汚職のリスク
  • 医療従事者の対応力
  • 費用負担増などの民間企業への影響

回答者の半数以上はNHI導入により、初期段階では南アフリカの人々の健康状態を改善しない可能性が高いと考えているようです。

しかし、医療制度とNHIのガバナンスに対する国民の信頼を得ることが先決であり、ドラスティックな行政改革が必要だと考えられています。また、導入前にステークホルダーとの関係を慎重かつ良好に管理しなければ、透明性とコミュニケーションの欠如により、大きな問題が生じる可能性があると回答者は感じている様です。

まとめ:アフリカにおける医療ビジネスの可能性

この様にアフリカ諸国では、まだまだ医療事情も、それをバックアップする医療保険制度も不完全です。すなわち、良い医療を提供したくてもそれを支える財源が確保されていないのです。

しかし、だからこそアフリカ諸国においては医療ビジネスのチャンスが手づかずに眠っているとも言えるでしょう。適正な医療を求める人々の数は、想像もつかないくらい多いのです。

UNECAは、アフリカにおける健康ビジネスの機会は、2030年までに2590億ドルにものぼると推定しています。さらに、アフリカ大陸自由貿易協定(AFCFTA)は、あらゆる貿易政策やプログラムにおいて健康を優先させ、アフリカ諸国間の統合を促進する機会を示しています。参考:ECA

アフリカの保健システムへの投資は、経済発展と成長を加速させ、数百万人の命を救い、生涯続く障害を予防することに貢献する非常に大きな投資機会なのです。

データ不足や公的医療保険の不備など、投資の課題は大きいですが、乗り越えられないものではありません。アフリカ全土で、ヘルスケア商品とサービスへのアクセスを改善するための資金調達ができれば、サービスの適正提供が実現し、民間セクターを活用する非常に大きなチャンスがあるのです。


投資を前進させるためには、コラボレーションが鍵となります。

 戦略的パートナーシップを結べば、共同調達や、目的が重複するイニシアティブでの協働が可能になりますし、さらに共同投資によって多くの機会が生まれ、リスクを分散させることができる一方、投資の当事者双方が投資の健全性を確認したいと考えるため、適切なレベルのデューデリジェンスを確保することができます。


また、現地に焦点を当てることで、投資に対する障壁を減らすことができます。現地の事情に詳しいパートナーは、投資の成否を大きく左右することがあります。

国際的なドナーや投資家だけに頼るのではなく、地元企業からの投資を模索することも、成長と自立という長期的な戦略にとって重要なことです。

BE FORWARDでは、長年における現地企業とのコネクションも多く、これまでに様々な分野で活躍されている日本の企業様に、依頼いただいた現地調査を実施し情報提供をしてまいりました。

ご興味のある方はぜひ弊社までお問い合わせいただければと思います。


アフリカビジネス事務局
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BE FORWARDは、中古自動車の輸出販売をメインに、アフリカに関するビジネスを幅広く展開しています。 月間販売台数15,000台、アフリカをはじめ世界207の国・地域で商取引を行うグローバルカンパニーです。 越境ECサイトとしては、月間6,000万PV、ネット通販売上高ランキング国内第1位(2023年)。 創業20年、つねに前へとアフリカでのビジネスを切り拓いてきました。その経験と実績をもとに、アフリカビジネス進出を検討する上で役に立つ、アフリカ現地の最新情報をお届けします。

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