水曜日, 5月 14, 2025

アフリカのバリューチェーン・サプライチェーンを変革し手頃な食品価格の実現に挑むアフリカビジネス事例

アフリカでは農業従事者が全体の50%以上を占めています。そんな中で、食料価格は高騰し、家計支出の大部分を占めています。この背景には、品質の保たれた農産物の供給不足、物流の非効率や小売の分散化、農業と加工の連携不足の問題が存在します。本記事では、これらの課題に取り組むアフリカビジネス・スタートアップ事例を紹介します。

アフリカでの食費が高い理由

サハラ以南アフリカでは、家計支出のうち家庭での食費に占める割合は約40%を占めています。ナイジェリアでは、収入のうち59%を食費に費やさざるを得ない状況です。

一方でアメリカやイギリスではそれぞれ6.4%と8.2%という数値であることから、食事を用意する負担はアフリカの人々により大きくかかっているといえます。

なぜ、ここまで食品のコストが高くなってしまうのでしょうか?

① 加工食品の生産に必要な農産物が揃わず、輸入に頼っている

アフリカの経済大国であるナイジェリアは、西アフリカ最大のトマト生産国の一つです。しかし同時に、西アフリカ最大のトマトペースト輸入国でもあります。
この統計は、アフリカ大陸における加工食品の生産能力不足を示す代表的な例です。
結果、トマトペーストの価格がトマトの価格の5.5倍高いという調査報告があるほど、食品価格の高騰に影響しています。

原材料としてのトマトが豊富にあるのだから、トマトペーストへの加工技術システムを取り入れれば輸入に頼る必要がなくなるように一見思えます。実際、ナイジェリアではトマトペースト工場を建設しこの課題を解決する試みがいくつも行われてきました。

しかし、こうした資本投下の取り組みはまだ成果を出せていません。ナイジェリアのトマトペースト工場は、小規模農家が作るトマトの品質不良や収穫の不安定さといった問題に直面しています。
例えば、アフリカ一の富豪であるDangote氏が建設したトマトペースト工場は、過去に何度も工場を閉鎖したり、生産能力の20%で稼働するといった事態に陥ったりしています。

加工工場が閉鎖や撤退に追い込まれると、一定の品質以上を求めるトマトの買い手が減少し、現地の小規模農家は品質向上への投資を行うインセンティブを失ってしまいます。
このような農家と食品加工業者の間に生じる「鶏と卵」問題を解決すべく、「加工食品の原材料品質・生産量の向上」という課題に取り組むアフリカのビジネススタートアップについて、後ほど紹介します。

② 食品が食卓に届くまでのサプライチェーンのコストが大きい

アフリカでは加工食品だけでなく、小麦、米、トウモロコシといった主食も輸入に依存しています。例えば、東アフリカの小麦需要の84%は輸入で賄われています。

こうした輸入品中心の食品がアフリカの食卓に届くまでには、多くの仲介業者が介在します。
食品メーカーが物流業者に販売し、物流業者が卸売業者に販売、卸売業者が小売業者に販売し、最終的に消費者が小売業者から購入するという流れです。

その過程で複数のマージンが上乗せされ、さらにアフリカの小売業者は規模が小さいため購買力が乏しいことも影響し、消費者が支払う金額は高くなります。
これに加えて、自国通貨の弱体化やロシアによるウクライナ侵攻に伴う石油価格の上昇など、国際情勢の変化が重なると、食品価格はさらに上昇し、アフリカの人々の生活を一層厳しいものにしています。

農産物と加工品の生産プロセス改善に取り組むアフリカビジネス事例

Case 1: ナイジェリアのReleaf社の事例 

ナイジェリアのReleaf社は、農家からパームナッツの加工を引き受けることで、原材料の品質と安定供給を確保しています。ナイジェリアではパームオイルの需要が供給を大きく上回っていますが、小規模農家の生産効率は低く、品質や収穫量にばらつきがあることが課題です。

Releaf社は農家からナッツを買い取り、独自の加工技術で効率的かつ均一に殻を除去し、カーネルの品質を安定させています。(​​カーネルとは、パームナッツの硬い殻の中にある可食部分で、パームオイルの原材料となります。)さらに、「ナッツファイナンス」という融資も農家に提供し、パームフルーツの収穫拡大を支援しています。これにより、農家は主要な収入源である赤いパームオイルを増産できます。この赤いパームオイルは、ナイジェリアの料理によく使われるだけでなく、精製されて食品や日用品にも利用されます。農家はこのオイルの生産で収入を得るとともに、副産物であるパームナッツをReleaf社に引き渡して融資を返済します。

Releaf社の殻を剥ぐ技術は、従来の手作業に比べて効率的かつ品質が高く、買い手の厳しい品質基準にも対応できます。買い手はカーネルの品質に敏感で、基準を満たさない場合には価格の割引や取引拒否が生じるため、Releaf社の技術は品質の安定に大きく貢献しています。こうして生産されたカーネルは、パームカーネルオイルに加工され、大手消費財メーカーやベジタブルオイルの精製業者に販売され、石鹸や洗剤などの製品に使用されます。

このように、Releafは農家の収穫量や生産性を向上させながら、高品質なカーネルの供給体制を確立し、農家はより多くの赤いパームオイルを生産し収入を増やし、Releafも品質の高いカーネルを安定的に確保しています。

Case 2: Darsh 社の事例

タンザニアの「Red Gold」ケチャップは、Darsh Industries Limitedが1990年代後半からトマト加工を開始した製品です。

当初、原材料の調達は地元の種子会社と連携し、アルーシャ周辺の農家と協力し栽培を行っていました。農家が栽培したトマトはリサイクル可能なプラスチックケースで収集され、Darsh社のアルーシャ工場で種子とトマトパルプ(果肉ペースト)に分けられます。種子は再度種子会社に戻され、新たな栽培に利用され、パルプは「Red Gold」の製品として加工されました。しかし、この体制でも2013年時点では現地のトマト供給が不足しており、トマトパルプの70%を中国から輸入していました。

2014年以降は、イリンガ州に設立された新施設で1日250トンのトマトを処理し、現時点では約4,000人の農家と連携しています。トマトの品質向上と安定供給のため、種の提供や栽培技術のトレーニング、金融支援を通じ、生産性向上と持続可能な生産体制の確立に取り組んでいます。

2023年には、タンザニアのトマトケチャップおよびその他のトマトソースの輸出額は約840万ドル、輸出量は約550万Kgに達し、そのうち約97%が隣国ルワンダへの輸出となっています。

Case 3: KILOMBERO SUGAR の事例

タンザニアで有名な砂糖ブランド「Bwana Skari」を製造しているKILOMBERO SUGAR COMPANY LIMITEDは、同国最大の砂糖生産会社であり、国内のサトウキビの約55%を自社農場で栽培し、残りの45%は連携している栽培者から調達しています。これらのサトウキビ栽培者は、企業からの農業指導、トレーニング、開発支援を受けているため、生産性と品質の向上に貢献しています。KILOMBERO SUGAR 社はアフリカ最大の砂糖生産グループであるIllovo Sugar Africa Groupの一員で、Illovoは南アフリカ、マラウイ、モザンビーク、エスワティニ、ザンビア、タンザニアで広範な農業・製造事業を展開しています。また、イギリスのAssociated British Foods plcの完全子会社です。

KILOMBERO SUGAR 社はキ26,000ヘクタールの農地を有し、そのうち10,000ヘクタールは自社農場で、残りの約16,000ヘクタールは独立農家の土地です。年間126,000トンの砂糖を生産し、約8,000人の契約栽培者から毎年約60万トンのサトウキビを調達しています。

物流プロセスの効率化で食品価格を引き下げるスタートアップ事例

インターネットを活用した「グループ購入」という手法が、アフリカで広まりつつあります。

ナイジェリアでは、WhatsApp上に数百人規模の食料品購入グループがいくつも存在しています。これらのグループに参加することで、メンバーは農産物の生産者に対して直接まとめ買いの注文を行うことが可能です。仲介業者を介さない取引であるうえ、大量に購入するためボリュームディスカウントの恩恵も受けられます。

このような手段は、先述のバリューチェーンやサプライチェーンの課題に加え、通貨切り下げや石油・肥料価格の上昇といった要因で食品価格が高騰しているナイジェリアにおいて、特に中流階級の人々の助けとなっています。

こうした消費者主導のボトムアップ型の節約手段が生まれる中、ケニアでは、さらなる効率化と規模の経済を実現できる「グループ購入」ビジネスが展開されています。

TuShopの事例 — 数万人のアプリ参加者とグループ購入できるアプリ

2022年にプレシードラウンドで資金調達を行ったTushopは、アフリカの消費者の食品支出を収入の10%にまで削減することを目指して立ち上げられた、B2Cグループ購入プラットフォームです。

Tushopのユーザーは、アプリに参加する数万人のユーザーと協力して、800以上の商品を購入することができます。WhatsAppの事例と同様に、食品メーカーや農家から直接購入できるため、従来の仲介コストが削減され、より低価格で食品を購入できる仕組みとなっています。

また、Tushopには「コミュニティリーダー」という役割が存在します。彼らは注文や配送を管理し、その対価としてTushopから手数料を受け取ります。Tushopが取り扱う食品の種類や参加ユーザー数の多さを考慮すると、グループ購入のWhatsAppを主催するよりも、このようなスタートアップが提供するモバイルアプリを利用する方が今後はメリットが大きいかもしれませんね。

サプライチェーンの効率化によって、食品を含む消費財の価格を下げようとするスタートアップの試みは、Tushop以外にも多く見られます。ご興味のある方は、アフリカの小売業者を救うBtoBコマースプラットフォームと越境ECへの恩恵 も合わせてご一読ください。

まとめ

アフリカの食材バリューチェーンやサプライチェーンには多くの課題が存在しますが、それらの課題に挑むアフリカビジネス・スタートアップの取り組みにより、食品の生産・流通の効率化が進んでいます。加工食品の現地生産や農家支援、サプライチェーンの改善を通じて、今後より手頃な価格で食品がアフリカの食卓に届けられることが期待されます。

これにより、アフリカの消費者がより他の事柄にお金を使えるようになることで、さらに経済成長が促進されるでしょう。

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参照元
The Flip: S3E7: From Farm to Table
UNCTAD: Revitalizing African agriculture: Time for bold action
Rest of World: How Nigerians are using WhatsApp groups to fight food inflation
Tech Safari: It’s expensive to put food on the African table
World Integrated Trade Solution: Tanzania Tomato ketchup and other tomato sauces exports by country in 2023
RURAL21: Processing tomatoes in Tanzania: a tale of seeds and ketchup
AFN: Tushop secures $3m pre-seed funding to scale affordable community e-grocery in Kenya
World Economic Forum: Which countries spend the most on food? This map will show you

アフリカビジネス事務局
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BE FORWARDは、中古自動車の輸出販売をメインに、アフリカに関するビジネスを幅広く展開しています。 月間販売台数15,000台、アフリカをはじめ世界207の国・地域で商取引を行うグローバルカンパニーです。 越境ECサイトとしては、月間6,000万PV、ネット通販売上高ランキング国内第1位(2023年)。 創業20年、つねに前へとアフリカでのビジネスを切り拓いてきました。その経験と実績をもとに、アフリカビジネス進出を検討する上で役に立つ、アフリカ現地の最新情報をお届けします。

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