現在、アフリカのBtoBコマースプラットフォームに注目が集まっています。2022年にWasokoが$125M (当時の為替レートで148億円)を資金調達したことに代表されるように、BtoBコマースプラットフォームにはこれまで多額のベンチャー投資が行われてきました。(参照元:TechCrunch)
BtoBコマースプラットフォームの成長は、アフリカ外からの越境EC (電子商取引) に恩恵をもたらしうる重要な要素です。この記事では、この領域に注目が集まる背景や活躍しているスタートアップ事例に加え、今後のアフリカビジネスへもたらす影響について解説します。
コミュニティに根差したアフリカ消費者の購買行動

以下は、アフリカ版Amazonと呼ばれるマーケットプレイス「Jumia」での業務経験を持つ、イギリス人起業家のコメントです。
“Jumiaでの私の最初の思い出の1つは、ウェブサイトには商品リストと価格・配送情報・商品の使用方法など全てを載せていて、来訪したユーザーはそれらを確認していました。しかしその後彼らは、カスタマーサービスに電話をかけて注文を依頼していました。我々のカスタマーサービスの回線はとても混雑していました。注文を処理するだけのために、カスタマーサービス部署に非常に多くのスタッフがいました。”
“アフリカ外の市場と同様に、価格や配送・返品ポリシーこそがマーケットプレイスを成功させる上で重要な要素だと思っていました。しかし、重要なのは人への信用や信頼関係だったのです。”(参照元:LinkedInの投稿)
他のマーケットプレイスと同様に、Jumiaにもオンライン上に購入ボタンが設置されています。それにも関わらず消費者から注文依頼の電話が殺到するのは、普段彼らが「人」への信用や信頼関係をベースに商品を購買しているからだと考えられます。
例えば、サブサハラ地域の消費者は、日々購入する商品の70%以上を地元の小売店から購入しています(参照元:The Supply Chain Lab )。 こうした小売店オーナーは、毎週日曜日に教会で顔を合わせる人だったり、長い近所付き合いでお互いをよく知っている人だったりすることがしばしばあります。
消費者が「コミュニティの人」から日常的に商品を購入することが、地域の小売ビジネスを支援するBtoBコマースプラットフォームへの投資が増えている理由の一つと考えられます。
アフリカの小売業界が抱える課題

アフリカの消費者にとって欠かせないこれらの小売店は、ビジネスを行う上でさまざまな課題に直面しています。
① 適正価格で商品を調達することができない
アフリカのサプライチェーンは複雑で多層的です。例えば、衣服のサプライチェーンでは、最初に輸入業者が海外からコンテナで衣料品を輸入し、その後卸売業者、さらに仲介業者が続き、さらに別の仲介業者が続き、最後にやっと小売業者に衣料品が届くという構造が一般的です。つまり、小売業者に商品が届くまでに少なくとも4つのマージンが重ねられています。さらに、小売業者は規模が小さいため購買力が乏しく、結果として仕入れ価格が高くなってしまいます。(参照元:The Flip)
② 商品の仕入れコストが高い
小売店のオーナーは石鹸やマッチ・調理用の鍋など様々な商品を販売しています。頻繁に品切れする商品があったとしても、そのたびに卸売市場に出かけるには移動と時間のコストがかかります。また、店を閉めて市場に行っても、必ずしも欲しい商品が手に入るわけではありません。村で小売店を営んでいる場合は大きな町に出かけるのに片道2~3時間かかることもあるので、ある程度の商品が品切れになるのを待ってから卸売市場に出かけることとなり、結果彼らの売上向上を阻害する要因になっています。 (参照元:TechCabal)
これらの仕入れの問題を抱える小売店オーナーに対し「より早く・簡単に・適正価格で商品を調達できる」という価値を提供しているのが、BtoBコマースプラットフォームです。
BtoBコマースプラットフォームの機能と役割

BtoBコマースプラットフォームは、小規模な小売業者が簡単に商品を発注でき、早く・安く仕入れることができるシステムのことです。ここでは、主に東アフリカ地域で小売業界を変革しているWasokoを例に、BtoBコマースプラットフォームの提供価値を紹介します。この会社は、小売店がモバイル技術を通じて効率的に商品を注文できる包括的なソリューションを提供しています。利用している小売業者は20万店舗以上、年間のプラットフォーム内取引量が3億ドルに達する代表的なサービスです。(参照元:TechCrunch)
Wasokoを使用する小売店のオーナーは、モバイルアプリだけでなくSMSを通じて日用消費財の注文を行うことができます。さらに、Wasokoは配送ハブや倉庫を持っているため、注文した商品を同日に小売店に配送することが可能です。これにより、オーナーはお店を閉めることなく、すぐに在庫が切れてしまう商品であっても迅速に調達することができるのです。(参照元:Wasoko Press)
またWasokoは、各地域への最適な輸送手段を独自に構築することで、従来のサプライチェーンに含まれていた多数の仲介業者(何層ものマージン)を削減しています。加えて、メーカーや卸売業者から直接商品を大量に購入することでボリュームディスカウントを得ており、その節約分をユーザーである小売店に還元しています。このアプローチにより、地域の小売店オーナーは比較的安い価格で商品を購入することができるのです。
またWasokoやその他のBtoBコマースプラットフォームは、小売店をさらに支援するための「後払い」オプションの提供を開始しています。「後払い」オプションは、小売店オーナーがこれまで購入してきた注文履歴を信用として扱うことで利用できるオプションで、これは小売店のビジネス成長にとって非常に強力な武器となります。
この後払いオプションは、例えば「目の前に石鹸を求める顧客が大勢いるのに、現金がなくて十分に仕入れられず、販売機会を逃してしまう」といった課題を解決します。石鹸を先に注文し、即日でお店に届けてもらい、その後、販売した際に得た現金で後払いするというサイクルが生まれることで、小売店は運転資金に縛られずに需要に応じた販売を行い、売上をさらに向上させることができます。
アフリカで消費者の主な購買窓口となっている小売店を支援するビジネスとして、Wasoko以外にも様々なBtoBコマースプラットフォームがこれまでに登場しています。
- 東アフリカ:Wasoko、MarketForce
- 西アフリカ:TradeDepot、OmniRetail、Sabi
- 北アフリカ:MaxAB
- 南アフリカ:Jabu
BtoBコマーススタートアップの現状と最新トレンド
多くのスタートアップ企業がプラットフォームを立ち上げているBtoBコマース領域ですが、現在はマクロ経済の悪化や資金調達環境の変化に直面し、多くの企業が事業戦略の見直しを迫られています。
例えば、ケニアのMarketForceは、2022年に4000万ドルの資金調達を行いましたが、収益性に課題を抱えていたことを主な理由に、2024年にプラットフォームを閉鎖しています(参照元:TechPoint)。
またナイジェリアのAlerzoは2023年に、黒字化達成のために従業員の解雇や抱えていた倉庫の閉鎖を行っていますが、これも資金調達環境が変動した2022年半ば以降に起きたことです(参照元:Semafor)。
このような厳しい環境下でも競争力を維持するため、BtoBコマース企業は様々な戦略を講じています。例えば、エジプトのMaxABとケニアのWasokoは、2024年6月に合併を発表しました。これにより社内リソースを共有し、コスト削減を図ることで競争力を強化しようとしています。
また、ナイジェリアのOmniRetailは、アセットライトなビジネスモデルを採用しています。自社で倉庫や物流を運営せず、これらをパートナー企業に委託することでコストを削減しているのです。需要に応じてこれらのコストを変動させることができるため、倉庫を保有する他のスタートアップに比べて有利な立場にあります。この業界での粗利率が一般的に3%から6%とされる中で、同社は2024年1月時点で粗利率9%を達成しており、実際にその優位性を示しています。(参照元:TechCrunch)。本プラットフォームは、コカ・コーラやユニリーバを含む200社以上のメーカーがナイジェリア内の小売店に自社製品を届けるために利用しており、今後も要注目の企業です(参照元:FT)。
加えて注目したいのが、特定の業界に特化したBtoBコマースプラットフォームです。例えば、Vendeaseはホテルやレストラン向けの食品調達、Jumbaは建設業向けの資材、Matta Tradeは化学製品の調達に特化しています。
これらのプラットフォーム企業は、日用消費財のBtoBコマースとは異なり、たくさんの製造業者や卸売業者を相手取る必要がありません。また在庫を注文するユーザー層が明確であるため、小売店を獲得するよりも大幅にマーケティング費用を抑えることができます。 業界特化型のBtoBコマースプラットフォームが登場することは、ある特定商材を販売したいアフリカ外の製造業者や卸売業者にとってもメリットが大きいため、日本の企業がアフリカに進出する際に確認しておきたい動向です。
アフリカ市場向け越境ECへの恩恵
日本企業などアフリカ外の企業がアフリカ市場に商品を販売する際には、通常、独自の流通チャネルを構築し、それを運営するスタッフを採用する必要があります。しかし、今回紹介したBtoBコマースプラットフォームは、流通手段の確立や倉庫管理、小さな町や村へのラストマイル配送をサポートする役割を果たしています。これらのBtoBコマースプラットフォームが今後さらに成長することで、アフリカ外からの越境ECビジネスをより行いやすくなることが予想されます。
こういったアフリカビジネス環境の変化を踏まえた上で、自社ビジネスのアフリカ展開の検討にご興味をお持ちであれば、「マーケットリサーチサービス」をぜひご利用ください。ケニア・タンザニアを中心としたオンラインアンケートやグループインタビュー、現地の店頭訪問などの市場調査サービスを実施しております。
その他、月間6,000万PVを超える越境ECサイトでの「バナー広告サービス」、海外輸送サービス「ポチロジ」など、アフリカ進出をお考えの企業様・個人様を支援するサービスをご用意しております。
ビィ・フォアードではお客様のニーズに合わせてアフリカへのビジネス進出をサポートいたします。ご相談は随時、無料で受け付けております。ぜひお気軽にお問い合わせください。