アフリカビジネスの最前線で活躍する社員2名に、現地でのビジネス模様を聞くインタビューシリーズ第2回。前回はアフリカ大陸の地域別に見た文化や経済の違い、ビジネスを設計する上でのキーポイント、そして金融危機や治安の悪さにまつわる実体験を交えたエピソードなど、アフリカビジネスの概況をお伝えしてきた。
今回は爆発的に普及しているモバイルマネーや中古車をインターネットで買う理由など、アフリカ人の暮らしを支える日常の消費行動について深掘りして行く。
―プロフィール紹介―
Tione Elisha Vitsitsi セールスグループ所属。2013年9月入社。東アフリカのマラウイ共和国出身。セールスチームのアシスタントから営業に昇格。毎月約1,000台の中古車を売り上げるマラウイ市場のセールスを現在2名で担当している。
土屋 敬 ローカルマーケティングチーム所属。公式エージェントの新規開拓やマネジメント、現地でのマーケティングを主業務としている。
1.副業で貪欲に稼ぐ中間層、その日暮らしのBOP層
―日本で得られるアフリカ関連のニュースは飢餓や貧困、内戦といった内容が多く、なかなか日常生活や実際の消費者行動について情報を得られる機会は少ないように感じます。アフリカの人々は実際どのような暮らしを送っているのでしょうか?
Tione:アフリカと言っても広いので、経済発展を遂げている国とそうでない国でも違います。発展している国ではアジアの新興国と同じように高いビルが建ち並ぶコンクリートジャングルのようなエリアもありますし、同じ国でも都市部と農村部では随分違います。でも、貧富の差が激しいのは都市部の方ですね。
(写真:タンザニアのダルエスサラームのダウンタウン)
土屋:よく経済誌などの特集で“アフリカ人の平均給与は月収200ドルや300ドル”みたいな記事を見かけます。でもいつも僕はそこに出ているような数字はリアルじゃないなと思います。というのもアフリカ人の中間層以上で、ある程度の購買力のある人たちはみんな副業みたいなサイドビジネスをたくさんやっています。でも、そういった収入はあまり調査対象とされないので表に現れて来ません。
ーそれは興味深いですね。ちなみにアフリカの人々はどんな副業をされているのでしょうか?
土屋: 例えば警官や公務員が車を売っているのもよく見かけますし、知り合いのためにスマートフォンを安いルートで買い付ける、といった人もいます。アフリカ人は家族も多いので、生活は大変です。だからみんな、稼ぐことに貪欲です。そういった点ではBe Forward Supportersもとても良いサイドビジネスとして受け入れられています。
(写真:土屋 敬)
Tione:もちろんアフリカでも弁護士や医者や会計士になれば、副業する必要もないですがそんな人たちはほんの一握りです。
ー貧富の差が激しいとよく言われるアフリカですが、いわゆるBOP層(Base Of Economic Pyramidと呼ばれる低所得者層)の人々はどのような暮らしをしているのでしょうか?
土屋:都会の街角で一日中何をするでもなく日陰の下に座って、おなかが空いたら仕事はないかなと探し歩く。そういったその日暮らしをする人たちも珍しくはありません。ただ、BOP層は収入こそ少ないものの、お金が入った際の購買意欲は非常に強いのが特徴です。またその人数も圧倒的に多いため、アフリカ市場では見逃せない存在です。
2.アフリカ人の必需品、スマートフォンとモバイルマネー
ーそうなると、中間層以上の人たちとBOP層では購買できる物も消費行動もかなり異なりそうですね。
土屋:そうですね、例えば携帯電話であればiPhoneなんて持てる人はほんの一握りです。でも、アフリカでは車とスマートフォンはライフラインの一部なので生活の必需品です。だから、どんなに貧しくても9割方ほとんどみんな必ず何かしらの携帯を持っています。一部まだプッシュボタン式の携帯電話を使っている人もたまにいますが、ほとんどはスマートフォンですね。
―BOP層の人たちはどうやって携帯を買うのでしょうか?
Tione:高い機種でなくても、すごくベーシックな安い機種がたくさん出回っています。よく見るのは中国製スマートフォンです。また、プッシュボタン式の携帯電話なら$10 – $20程度で購入できますね。
―ちなみに、携帯会社はどうやって毎月の料金を回収しているのですか?
Tione:日本の携帯会社のように月額制で銀行引き落とし、というシステムはありません。というのも、アフリカの人々で銀行口座を持てる人はまだ限られているからです。また、クレジットカードもほとんど普及していません。だから、通常、使う時は携帯電話用のプリペイドカードを最初に購入します。
土屋:MTN社のTalkTimeやAirtel社のAirtimeといったところが有名で、モバイルバンキングのサービスも兼ねています。同分野だと、ケニア発のM-PESAも最近ではアフリカ全土に爆発的に普及しています。
Tione:マラウイだとメイズ(とうもろこし)などを売っている売店やコンビニがそこら中にあるのですが、そういう店で買えるスクラッチカードみたいなものです。スクラッチ部分を削るとPINコードが出て来るので、それを携帯に入力して通話ボタンを押せば金額のチャージが完了します。そこから、それを通話に使うかデータ通信に使うかなど、割り振ることができます。
(写真:マラウィの街角にあるローカルショップ)
インターネット回線を使わずに携帯回線を使うので、誰でもお金を送りたい相手にSMSをするだけで送金できる手軽さが人気です。多少の手数料は取られますが、もらった人はそのSMSのメッセージを最寄りの取扱店に持っていけば現金を受け取ることができます。
土屋:アフリカはまだ戸籍管理などが出来ていない国も多いので、銀行口座を持っている人自体も少ない。それにも関わらず、携帯や公共料金といった小口の現金取引のニーズはすごく高いんです。だから、お金をきちんと回収しようと思うとプリペイド式に頼らざるを得ないんですね。
だからもし、毎月課金するタイプのビジネスを展開するのであれば、プリペイド式の方がいいでしょうね。アフリカではどこの携帯会社もそうなので、プリペイド式は浸透しています。
Tione:正直なところインターネットの環境が手に入らなかったり、使い方がわからない人も多いです。だからそういった人たちに対しては、ビィ・フォアードの公式エージェントのようにリアル店舗でネットショッピングをサポートしてくれる存在は非常に重宝されています。
3.新車や新築マイホームは中間層でも手が届かない~中古とDIYが浸透する理由
―そうなると、アフリカで車、特に新車を買える層はかなり限られて来そうですね。
土屋:はい、中間層でも新車は手に届かない存在なので、買えるのは本当に限られた人たちです。アフリカでは新車は南アフリカ共和国で作られることが多く、トヨタもタンザニアやザンビアに支店はありますが、 そういう場所で買える人もほとんどいないですね。
新車だと大体400万円~とか日本よりも金額は高いことも多々ありますし、何より金利も30%とか信じられないくらい高いです。だからみんな中古車を探して買っていきます。
Tione:みんな新車ではなく中古車を安く手に入れて、修理したり自分好みに改造したりしながら使っていますね。トヨタをはじめとした日本車のすごくいいところは、スペアパーツがとても強いところです。取替えもすごくやりやすい。アフリカの人たちは、学校に行ったことがなくても、車が壊れた時に、修理はできます。
―自動車工場に頼むのではなく、自分たちで直せてしまうとはすごいですね。
Tione:家を買う時も、大体同じです。新築のマイホームが手に届く人はほとんどいません。だから、中古の家を買ってリフォームしたり、自分たちで一から建てたりします。車を修理したり自分たちで家を建てたりするいわゆるDIYは、アフリカ人にとってはすごく身近な生活の一部なのです。
(写真:左-Tione Elisha Vitsitsi)
―でも日本人の感覚だと、どうしてもインターネットで遠く離れた国からわざわざ車を買うというのは正直なところ実感が湧きません。アフリカの人々はどうしてネットで車を買うのでしょうか?
土屋:ひとつには「新車は手に届かないから、じゃあ中古車を買おう」となっても、そもそも新車を購入しないアフリカ内で中古車市場に流通する絶対数がかなり少ないという状況がありました。ここ10年~20年かけて増えてはきましたが、まだ日本で流通する中古車のラインナップや品質には及びません。
Tione:あとは、結局車を買う時の選択肢がほとんどなくて、実質新車を買うかネットで買うかを選ぶしかしかないのです。例えば、欧州で生産された日本の某コンパクトカーを、マラウイのメーカー正規ディーラーで新車として買うこともできますが、やはり価格は50,000ドルぐらいします。
でもそれがインターネットを通して、同じような車種が43,000ドルで買える。輸送に2ヶ月はかかりますが、7千ドルを節約できるなら、みんな待ちますよね?そういうことです。
4.アフリカのEC市場と “From Japan”の価値
―「新興国のAmazon」を目指すビィ・フォアードですが、アフリカ現地での競合は存在するのでしょうか?
土屋:アフリカだと欧州出身のナイジェリア企業・JumiaというECサイトが有名ですね。欧州から輸入した服とか家電とかを中心に売っていて、日本でいうところの楽天さんみたいに「Jumia car」とか「JumiaTravel」とか、どんどん拡大していってます。
ーJumiaは競合になり得るのでしょうか?また、差別化としてはどういった部分がビィ・フォアードの強みになるのでしょうか?
土屋:エリアによっては競合になり得ますが、やっぱり弊社の強みは「From Japanの製品」を扱っているというところですね。先日も、アフリカで携帯ショップを営む方が日本に訪問しに来たのですが、その方は何をしに来たかと尋ねると「秋葉原に携帯を買いに来た」と。
最初は売物を仕入れるために日本に来たのかと思っていたのですが、実は自分用の携帯を買いに来たそうです。「アフリカで買うとかなり高い金額を出して正規店で買わない限りは、中国製のコピー商品が多くて信用できない。だから本物が欲しくて日本に買いに来た」とのことでした。
そしてその後彼はBe Forward.jpでも、中古のスマホを買ってくれました。同じ中古でも、日本人はやはりモノを大事に使うので、“日本人の使っていた中古品”というのは状態が良く高品質だとよく言われます。やはり、“From Japan”として日本から買えるものは信頼と評判が高いのです。「Mottainai」はアフリカ人にも知られた有名な言葉です。日本人のモノを大切にする文化が、国を超えたビジネスに繋がっていくのは非常に嬉しいですね。