アフリカビジネスに参入する際、現地で法人を作り展開することは非常にハードルが高いことは有名だ。海外に商品販売を検討する時も、先進国であればAmazonやeBayなどのプラットフォーム型のECサイトに出店することも可能である。ところが、アフリカにはナイジェリア発のECサイト・Jumiaはあってもプラットフォームで展開できる企業はまだ存在していないのが実情である。しかし、この日本発でアフリカを始めとした新興国から月間6千万ものアクセスを集めるECサイトがあることをご存知だろうか?それが中古車・オートパーツECサイト、Be Forward.jpだ。
これまでに培ったECサイトでの集客・販売力と配送・物流力を活かし、近年はエレクトロニクスを始めその取扱い商品群を着実に広げつつあり、共に“From Japan”製品をアフリカや新興国に展開できる日系企業を探している。
以前アフリカ人の消費生活についての記事でも取り上げたが、アフリカ人のインターネット利用はモバイルを中心に急速に進んでいる。調査*によれば、アフリカの携帯電話の人口普及率は80%を超えるという。また、今後アフリカのEコマース市場は2025年までに75億米ドル市場へと成長し、アフリカの65%以上の世帯収入が年間5千ドル以上になると言われている。つまり、今の主流である最低限の生活必需品しか買えない層が、もう少し嗜好品の消費ができるまでに可処分所得が向上することが予測されているのだ。
今回は、急速に発展するアフリカのEコマース市場に追随するべく10年かけてアフリカ市場を開拓し、さらなる拡大を狙うBe Forward.jpについて担当社員にインタビューを行った。
<プロフィール紹介>
第1営業部 部長
大野 高広(おおの たかひろ)(以下:大野)
ビィ・フォアード創業メンバーとして、10年に渡り売上数字の拡大に大きく貢献。現在は第1営業部の部長として、アフリカを中心とした国際色豊かな部員20名を率いる。
オートパーツ部 販売グループ
西村 翔吾(にしむら しょうご)(以下:西村)
オートパーツを始め、新規商材の営業から発送までを取りまとめる。約3,000点の商品を販売し、世界各地へ輸送。オートパーツチームのスタッフ数は7名。
1.世界有数の新興国・アフリカ地域向けECサイト“Be Forward.jp”で起こっていること
*第1営業部 部長 大野 高広
―Be Forward.jpについて、まずは概要を教えてください。
大野:Be Forward.jpは、日本の中古車やオートパーツ、その他商材を海外に向けて販売する越境ECサイトです。2004年からサービスを開始し、現在では月間約6千万ものアクセスがアフリカを始めとする新興国から集まります。アフリカ地域の顧客リスト数は約125万人を超え、販売台数は車だと世界153カ国に毎月1万6千台を出荷しています。計算すると3分に1台が売れていることになりますね。また、パーツは232カ国に約2,000個を毎月出荷しています。
売上の中心になっているのは、ジンバブエやタンザニア、マラウイといった主に東アフリカの国々です。これらの国では中古車を買おうと検索すればBe Forward.jpがかならず上位に出てきますし、中にはその国のサイトアクセスランキングのTop10入りしている国もあります。
アフリカ大陸では各国の歴史的背景から大きく左ハンドル(西側諸国)と右ハンドル(東側諸国)に分かれます。日本で流通する車はすべて右ハンドルですので、必然的に東側諸国からのオーダーが多いですが、今、西側諸国からの要望にもお応えするべく、韓国やアメリカといった左ハンドルの車の在庫の調達も進めているところです。
―車やパーツを、わざわざ遠く離れた日本からオンラインで買うメリットは?
大野:経済が急速に発展しているとはいえ、アフリカでは新車を買える余力がある購買層はまだ少なく(第5回記事参照)、ほとんどの人が中古車で探しています。その中でも日本の中古車は状態が良く、例え輸送に船便で1ヶ月かかるとしてもコスト面・品質面で十分満足できる商品を手にすることができるのが最も人気がある理由です。
また、アフリカでは「発注したのに手元に届かない」「届いた商品が故障していた」などまだまだ信用できる中古車業者が少ないのが現実です。しかし、Be Forward.jpであれば安心安全な商品が確実に届く、という信頼と評判を10年かけて築き上げて来たことも大きいです。
西村:オートパーツの場合はまた少し事情が異なり、海外ではそもそも購入した年式の日本車に合うパーツを手に入れること自体かなり難易度が高いため、そこをマッチングして必要な商品をお届けできることが大きな価値になります。
中古車用のパーツは何千・何万種類にも上り(第7回記事参照)、これだけたくさんの種類の商品を余すことなく日本国内から仕入れ、海外に発送できるのはBe Forward.jp以外にありません。
ーアフリカの主にどんな人々がBe Forward.jpで商品を購入しているのでしょうか?
*購入希望者にBeForward.jpを見せながら車の購入をサポートする公式エージェント。
大野:大きく分けると主に個人のお客様と、ディーラーや現地の公式エージェント(Be Forward Supporters)に分かれます。ただ、アフリカの場合は副業として個人でディーラーをしているケースもあり、取り扱い台数の規模も様々なので、BtoCとBtoBの区分けはそこまで明確ではないですね。
西村:アフリカでは、まだまだパソコンの普及率は低く、コミュニケーションの約7割はモバイル経由です。また、個人のお客様だと、アフリカ時間の午前中~昼過ぎくらいまでに問い合わせフォームやメール・電話で問い合わせが来ることが多いですね。
大野:これがディーラーのお客様になると「できる限りより良い最新情報を得たい」と日本が動いている時間にわざわざ連絡が来るケースをよく見かけます。
公式エージェント経由は新規のお客様が多いのも特徴です。アフリカにはまだインターネット環境がない人も多く、エージェントはそういった人々と一緒にBe Forward.jpにアクセスして購買のサポートをしてあげる役割も果たしています。
いずれの場合にしても、顧客とのコミュニケーションを円滑にするために、我々のカスタマーサービスでは35言語が対応できるスタッフ体制を整えています。
2:めまぐるしく変わるアフリカのビジネス事情、顧客のニーズにどれだけ迅速に応えて行けるか?が勝負
*オートパーツ部 販売グループ 西村 翔吾
―“ラストフロンティア”と呼ばれながらも成功が難しいとされるアフリカビジネスにおいて、Be Forward.jpが躍進し続ける理由は?
大野:もちろん、この10年間で常に好調だった訳ではありません。2015年にはチャイナショックなどで大きく売上が落ち込んだ時期もありましたし、その後もジンバブエの通貨危機などアフリカビジネスは常にカントリーリスクと隣り合わせです。
しかし、我々は常にどんな時も顧客の声とサイトの分析データを国別に細かく分析し、仮説を立て「じゃあ、どうやったら顧客の要望に応えられるか?」とひたすら考え策を打ち続けて来ました。
この10年で最も顧客の声に応え、信頼を獲得することができた大きなターニングポイントは、当時アフリカの顧客が一番不安に思っていた「商品を確実に手元に届けてほしい」という要望を、独自の物流と配送面を整備(第1回記事参照)することで応えたことです。
もちろんこれを作り上げるのは簡単なことではなく、長い年月がかかりました。しかし同時に「アフリカへの物流・配送網ならBe Forward」という他社が一朝一夕には真似することのできない我々の一番の強みにもなりました。
*顧客が安心して買い物ができるようBe Forward.jpのサイトには、様々な角度の写真や詳細情報を掲載。
西村:オートパーツの取り扱いも「Be Forward.jpで購入した車に合うパーツが欲しい」という顧客からの声がアフターサービスにたくさん寄せられていたことがきっかけで始まりました。
しかし、開始当初からここまでは地道な改善の繰り返しでした。商品点数も顧客の求める商品にできる限り対応するために当初の倍以上に増やしました。
それでも、サイトのアクセスは多いのに検索した後に離脱する顧客が多く、商品のカテゴライズを変えたり、顧客の欲しい部品とより的確にマッチングさせるために車のモデルコードや年式、機能をアイコンに追加したり…、と一つ一つ改善していくことで、顧客が使いやすいサイトを作り上げていきました。
こういった改善を積み重ねたことで、顧客がサイトで情報を自分で探しやすくなり、カスタマーサービスに来る問い合わせの質がより高いものになったのを感じます。そのおかげで、顧客対応にかかる時間も、ずいぶん効率化されました。
今年で3年目となり、お陰様でようやく事業は軌道に乗り始め、今期は昨年の2倍の売上を達成しました。また、これまで車事業だけではリーチできなかった新規顧客の獲得にも繋がっています。
*オートパーツはその取扱い商品の種類の多さから、探している商品といかにスムースにマッチングできるかがカギを握る。
―アフリカビジネスにおいて、顧客のニーズを的確に把握するために大切なことは?
大野:まずはやはり、国別に傾向を見て行くことは大前提です。売れる車の車種、年式、金額といった情報は各国ごとに異なりますし、また国によって法規制や為替相場もしょっちゅう変わるので。
もちろん、アフリカはTOYOTA車がよく売れていて、車種もHIACEやHARRIER、RAV4といった大人数で乗れるバンやSUV、Vitzやistのような街乗り用のハッチバックが人気、といったようなお大まかな傾向はありますが、国別で見る方がより顧客のニーズがより鮮明に感じられます。
また、これに加えて大切なのは、その傾向を迅速に読み取っていち早くアクションに移すことです。Be Forward.jpではAIを駆使して売れる車の動向を予測し、仕入れ担当がその車をしっかりと在庫確保できるようアラートを出すなどシステムの投資にはかなり力を入れています。
3:Be Forward.jpの今後の課題と展望について
ー今後の課題と展望について、お聞かせください。
大野:今はアフリカ大陸の東側諸国とのビジネスが中心ですが、韓国やアメリカといった三国間取引による仕入れで左ハンドルの車の在庫をもっと拡充させ、西側や北側諸国にも展開して行きたいですね。
また、さらには「新興国のAmazon」を目指して、車関連の製品に限らずエレクトロニクスを始めとした“From Japan”のラインアップをより一層拡充する計画も進行中です。
そして新規だけでなく既存のビジネスについても、サイトの画面の仕様から問い合わせのやりとりのメール一通についてまで、小さなことでも顧客の声に耳を傾けて、改善していくことを続けて行きたいですね。「Be Forwardは、自分の声に耳を傾けてくれる」良い意味で顧客がそういった期待を持ってくれる企業でありたいと思います。
西村:オートパーツについては、発送手段を今よりさらに充実させる、ということですね。パーツが必要になる時は車が故障した時なので、「今すぐ欲しい」「できるだけ安く欲しい」といった場合がほとんどです。
だからこそ、サイト上でも「すぐに探せて、すぐに届く」ことを実現しなければなりません。そのためにさらなるユーザビリティの高いサイトを目指して改善を行い、コンテナの仕向け地ももっと増やして行こうと思います。
また、車を購入する顧客に対してオートパーツの取扱いの認知度ももっと増やして行き、「パーツも買えるならこの車を買おう」というような購入の決め手になるサービスにしていきたいですね。
*出典:総務省「世界におけるICTインフラの広がりとインフラ輸出の現状(2017)」
Mckinsey&Company 「Lions (still) on the move: Growth in Africa’s consumer sector」
「Lions go digital: The Internet’s transformative potential in Africa」